■アップル、iPod shuffleを発表

アップルコンピュータ株式会社は12日、同社初のシリコンメモリオーディオプレーヤー「iPod shuffle」を発表した。内蔵メモリの容量により512MBモデル「M9724J/A」と、1GBモデル「M9725J/A」の2モデルをラインナップする。

 AppleStore価格は512MBモデルが10,980円、1GBモデルが16,980円。今週末より順次出荷を開始する。OSはWindows 2000/XPおよび、Mac OS X v10.2.8以降に対応する。

 液晶ディスプレイは搭載しておらず、内蔵メモリのみで、メモリスロットなども装備しないシンプルなデザインを採用。外形寸法24.9×83.8×8.3mm(幅×縦×厚み)、重量22gの小型サイズを実現している。



あー、ついにこれで携帯音楽ファイルプレーヤーがiPodの一人勝ちで決まってしまった感じですね。液晶を省いて512MB、1万円弱、それでいてiPodブランド。再生専用ポータブルMDプレーヤーより安いんだから、よっぽどのコンピュータ・アレルギーの人以外はそりゃ全員こっち買うだろうな。MDが完全なるレガシー・デバイスとして死刑宣告された感じ。MDの録音フォーマット、ATRACの圧縮アルゴリズムはこの10年でかなりの進歩を遂げただけに、何だかとっても勿体無い気がします。ま、時代の流れではありますが・・・。

MDに対するノスタルジーはともかくとして、個人的にはこのiPod shuffle、コンセプトに何と言うか、ざわついたものを感じてしまうのです。


■新しい曲順はランダム

「意外性に満ちた毎日」にようこそ。iPodの「曲をシャッフル」機能が、「次に再生される曲がわからない」楽しさで、お手持ちのミュージックコレクションに新境地を切り拓いてくれます。あなたも新登場のiPod shuffleで、この新しい世界に飛び込んでみませんか。iPod shuffleは、お気に入りの曲を毎回ちがった順番で再生して、「お決まりのパターン」を完全に排除してくれます。

(中略)


次に再生される曲が予想できないというだけでも「同じことの繰り返し」から、ほんの少し解放されるはず。iPod shuffleをつけて走れば、いつものジョギングコースの景色も違って見えるでしょう。次にかかる曲がわからないことで、見慣れた交通渋滞も少し新鮮に感じるはず。iPod shuffleは、まるでiTunesのパーティーシャッフル機能を持ち出す感覚で、あなたの毎日に新風を吹き込んでくれます。iPod shuffleが繰り出す音楽に身をまかせて、この新しい楽しさを堪能してください。



最後のほうの「あなたの毎日に新風を〜」のあたり、冗談のようなフカシとこじつけはまだ笑えるのですが、「「次に再生される曲がわからない」楽しさ」「「お決まりのパターン」を完全に排除してくれます」というのがものすごく引っかかります。

コロンブスの卵というか、逆転の発想というか・・・。液晶ディスプレイを省いたことによるファイル検索性の低下・・・、つうか、「手動で再生するファイルを視覚的に個別指定できない」という根本的な問題を、ランダムアクセスという製品コンセプトにすり替えた事自体は「座布団一枚!」と思わず叫んでしまいそうになりますが、「お決まりのパターン」をあえて壊す必要性ってあったのでしょうか?

きっと所詮ハード屋さん、ソリューション屋さんであるAppleにはわからないのだろうけど、音楽における「順序」ってのはそれなりに意味のあるもので、少なくともミュージシャン達は楽曲バランスや盛り上げのポイント、伝えるべきメッセージをふまえてアルバムにおける曲順を決定しているわけで、明文化(名音化?)されているわけでなくとも、そこには確固たる「意思」が存在しているはず。それを聴き手が「自分で編集してマイベストMDを作った!」とかならまだしも、機械的に、完全なる無作為性で順序分解を行うわけですから、これは「破壊」に等しいのでは!?

ちょっと想像してほしいんだけど、このiPod shuffleビートルズの“Abbey Road”を聴いたとして、1曲目、いきなり“Golden Slumbers”がかかって、2曲目が“The End”、3曲目、いきなり戻って“Come Together”とかになったら!?
・・・「なんで“Carry That Weight”がすットんでんだ!?」てな具合に、その日1日、形容しがたい違和感を感じること間違いなしです。

(参考までに説明すると、この “Golden Slumbers” 〜 “Carry That Weight” 〜 “The End”はメドレーになっていて、ビートルズのラスト・アルバム、最終最後の聴き所になっているのです。ポール・マッカートニーは解散後もこの3曲をメドレーにして演奏していました)

ビートルズであれば、初期時代、EP盤がリリースの中心でLPは既発曲をまとめたお買い得品的な位置づけだった頃の作品であれば、楽曲ごとがコンセプトの単位なわけですから、ジューク・ボックス的な感覚で楽しめるものの、“Sgt. Pepper's〜”以降、ビートルズだけでなく、ロック・ミュージックという音楽の表現形態そのものがコンセプトをアルバム単位で表現するようになるわけで、表現における非常に重要な役割を「曲順」は担うようになるわけです。

ロック・ミュージックなんかまだ「曲」という単位にバラすと、それぞれが全く異なったものなので「shuffle」が成立しますが、これが大長編のクラシックや長尺のジャズとなると、マスターとなるCDのチャプターの割り振りによってはひとつの曲が場面ごとにトラック分けされているため、曲の途中→曲のアタマ・・・なんていう再生もあり得ます。

このiPod shuffleはまだいいんですよ。一応、サブのモードで曲順通りに再生することもできるようになっているみたいなんで。始末に負えなくなりそうな可能性を秘めているのが今後、さらに普及するであろう音楽配信による楽曲単位でのダウンロード販売です。

既存のアルバムを楽曲単位でバラ売りしている時点で冒涜に他ならないですし、今後、一般的な作品の発表形態が音楽配信に移行すると、ジャケットや歌詞カード、さらにはライナーノーツなんてのは無くなって、再生ソフトの片隅にちょっとした画像が表示されるだけになるのです。

これって結局、核である音楽と同時発展してきたパッケージ・デザインに音楽批評、即ち、付随する商業芸術を御破算にして、1曲ごとの完成度のみが問題となる市場へ移行してしまう、って事なわけで。それこそ、「名曲」は生まれても「名盤」は存在し得なくなるということで。

CDを全国流通させることが難しいインディーズ・ミュージシャンが低い損益分岐点を維持しつつも多くの人に楽曲を聴かせたい、つい1時間前にレコーディングした出来立てホヤホヤのセッションを1秒でも早くファンに届けたい、そんな事情や理由があるならわかりますが、それこそ「総合芸術」って呼べるくらい歴史上最も市場性を持った総合的な表現形態が消えてしまうわけですから、ハッキリ言ってiTMSをはじめとする音楽配信には懐疑的な立場を取ります。絶対的に何かしらのパッケージ・メディアと並存してしかるべきであると思います。

これが非常に懐古趣味的なオピニオンであることは自覚してますし、確かにiPodによる音楽リスニングの革命はエキサイティングでしょう。
しかしながら、ビートルズアメリカのブルースやロカビリーを心から愛しながらそれを洗練して芸術表現にまで高めたように、ロック・ミュージックは勿論、世の中にある膨大な音楽という音楽、全てにおいて過去の大いなる歴史的資産を敬いながら、革新を繰り返してきたわけで。
そういう意味で、Appleのように単純に「市場」としてしか音楽を捉えていない、音楽そのものに対するリスペクトを全く感じない「革新」なんて、「拒否」となると面白くないし、アウト・オブ・デイトで馬鹿まるだしだけど、単純には受け入れたくないものです。


ハイロウズヒロトが言ってた言葉―「これ以上便利にならなくていい」





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<参考LINK>


Apple http://www.apple.co.jp/
Apple iPod shuffle ニュース・リリース http://www.apple.com/jp/news/2005/jan/12ipod_shuffle.html
Apple iPod shuffle 製品情報 http://www.apple.com/jp/ipodshuffle/