華氏911  2004年(米)監督;マイケル・ムーア

さてさて、たまには音楽ではなく映画の話題なんぞを。ついにカンヌのパルムドールまで獲っちゃった“華氏911”を観てきました。俺の人生のFavorite Movieを挙げるならば、北野武の“キッズ・リターン”と、マイケル・ムーアの前作“ボウリング・フォー・コロンバイン”だ!って即答断言できるくらい非常に大好きな映画監督の最新作、とくれば、本気で期待してしまいます。


「あれは映画ではなくドキュメントである」
「内容は中途半端、あの程度ではブッシュはビクともしない」
「取材が足りない、主張は散漫、NHK特集のほうが完成されている」
「映画は虚構の世界の中で、自分のメッセージを表現していくべき」


上記は、井筒和幸監督がTVで喋っていた“華氏911”に対する批判的な喋りを適度に要約したもの。まぁ、文章での発表ならともかく、時間の限られているTVでの発言の揚げ足取りをするつもりはさらさらありませんが、こんな言葉はナンセンスなだけに思えてくるほど、「アホでマヌケなアメリカ白人(by マイケル・ムーア)」にもよ〜〜〜くわかる明確な主張、

「ブッシュは自らとテロ・グループの利権と米国経済のためだけに9・11とは無関係なイラクを攻撃し、大勢の人間が死傷している」

これだけを、ありとあらゆる手段で主張しているわけだ。

少なくとも前提として、マイケル・ムーアは「テロそのものに対する報復」は是認している点で、ヒッピー・アナルコ・キャピタリスト(反体制自然賛美無政府資本主義者・笑)の俺とは根本的に思想が異なるわけで、同意もへったくれもないから、その主張について嫌事をつらつら書いたりはしないけど、そんな俺がマイケル・ムーアに心から共感しているのが、現実というフィールドに立脚し、愚直なまでに地道かつヒネクレた方法で自らの主張を直接的に提示し、映像表現の可能性を追いかけているところなのだ。

前述の井筒監督(実はけっこうファンなのだ。デビュー作“ガキ帝国”は衝撃的だった)の発言で、非常にガッカリしたのが「虚構の世界の中で、メッセージを表現していくべき」という点。

僕に言わせれば、そんなもん、方法論として完全に使い古されていて、ハリウッド映画の盛り上げ方程式(何分ごろ事件発生、ラスト何分にピンチが・・・のアレ)に完全吸収されていて、現実社会に対する異化機能なんざ、とっくの昔に無くなっているのである。“ターミネーター”に機械化社会への反対が主張されていたか?核戦争で文明の崩壊したデカダンな地球が舞台の映画なんか腐るほどあるぞ。「俺にはコミック雑誌なんかいらない 俺の周りはマンガだから♪」って内田裕也が歌っていたけど、SF並みにシュールな非常事態である戦時下において、マイケル・ムーアが取っている方法論は、ラジカルすぎて逆に正しく、カルチャーが本質的に持っている筈の批評性を完全獲得しているわけだ。

そして、その具体的方法。今回の作品は、基本的にはニュース映像のツギハギを主体として、挿入するBGM・ナレーションで笑わせたり、泣かせたりしている。

(アマチュアだけど)番組制作経験者なもんで、どうしてもそういった視点で観てしまうのだが、この映画で使用されているニュース映像素材の豊富さには本気で驚かされる!しかも、その多くは画質から判断するに、マスターからの直コピーではなく、VHSで数回ダビングしたような荒さがありありと伺える。これって、早い話が「映画で使うからマスターテープ貸して」なんてもんじゃなく、9・11以降、マイケル・ムーア本人が自分のおうちで録画して、それをライブラリ化したものを映画の素材にそのまま流用しているのではないだろうか?そして、ブッシュが開戦演説する時のリハ、カメラテストでメイクしながら、わざと白目をむいておどけたりする映像があったけど、こんなもんTV局が素材提供なんかするわけないから、どう考えても関係者筋から非公式に入手したものであろう。早い話が、無修正裏ビデオやないかっ!(笑)

そして、完成したらしたで、各映像に対する権利の許諾を受けなければならない。そのまま使うなら「引用」のセンも使えなくはないだろうが、なんせBGMやナレーションを重ねて著作同一性なんかどっかに逝っているのだ。OKの出た映像もあれば、逆に「使うことまかりならん!」となった部分もあるだろう。そうなったら再度編集しなおして、また権利関係を調整しなければならない。無修正裏ビデオの部分なんかはどうやって話しをつけたんだ?でも、とにかく言えるのが・・・

めんどくせ〜〜〜〜〜〜っ!

でも、逆に言えることは・・・・

それだったら俺にだってできる!(かもしれない、気がする、いや、できたらいいなぁ・・・)

俺がマイケル・ムーアの大ファンなのは、この点が最も大きい。Rock'n'Rollなんていう難儀な価値観に頭をガツーン!とヤられてしまったヒッピー・アナルコ・キャピタリスト(笑)ってのは喜怒哀楽主義の単純バカだから、実写と区別のつかないCGや、自然法則を超越するワイヤーアクションなんかができなくても、もっとはっきり言えば赤貧洗うがごとしの(ビ)人間でも、社会的に影響力を持った存在意義のある「表現」を創ることができるっていう、「夢」を見させてくれる所が最高なのである。

そして、この映画は民主党のプロバガンダ映画として流通させているわけだけど、これが実際に世論を動かして、ケリー政権を樹立することに成功したら・・・?まさに「表現の可能性」として「夢」そのものではないか!

(とは言っても、今回の場合、神輿担ぎの玉が「民主党」ってのが非常に気にくわないけど。そういや、脱線するけど、アメリカって俺みたいなヒッピーや共産主義者の利益を代表するような政党ってのは完全な泡沫政党しかないのだろうか?日本で言うところの社民党みたいな、「その他大勢」ではあるけど、一定の存在感はある政党は存在しないのか?)


・・・・でも、これはマイケル・ムーア個人(方法論)そのものについての話。この“華氏911”、確かに上記の面では面白かったのですが、前作“ボウリング・フォー・コロンバイン”のような突き抜ける感動は無かった。なぜなら、僕がマイケル・ムーアを支持するもう一つの要因がすっぽり抜け落ちてしまっていたからである。

その「要因」とは、彼の持ち味である「アポなし突撃取材」、すなわち、確信犯的無邪気さとブラック・ユーモアのこと。

ボウリング・フォー・コロンバイン”が僕のアンセムとなり得たのは、「マリリン・マンソンのライブを禁止するのなら、なぜボウリングも禁止しないのか?」という冒頭の因縁つけ・いいがかりに始まって、ウォルマートに弾薬の取り扱いを止めさる、全米ライフル協会会長に自らが人種差別主義者であることを自白させるなど、「意見」というよりは「嫌がらせ」に近いやり方で勝利をもぎ取ったからだ。

正味な話、かなり卑怯な手段であることは間違いないのだが、前述のように、僕はRock'n'Rollなんていう難儀な価値観に頭をガツーン!とヤられてしまったヒッピー・アナルコ・キャピタリスト(笑)であるからして、「正攻法」というものに本気で生理的嫌悪を持っている。だからこそ、一貫して「権威者にカンチョーをぶっ挿す(by 山口洋)」トーンをつらぬいていた“ボウリング・フォー・コロンバイン”には強烈なカタルシスを感じたのだ。

しかしながら今回はどうだろう?ところどころにブラックなユーモアは散りばめられているが、全体のトーンとしてはニュース映像素材によるイラクの現実の描写、すなわち、「正攻法」そのものによる反戦の主張なのである。これには「感動」や「ドキュメント」はあっても、「カタルシス」がほとんど無いのだ。

マイケル・ムーアとしては、本当は今作も前作のようなトーンで攻めたかったに違いない。映画の後半では、イラク派兵に賛成したクソッタレ議員どもに「本当に意義のある派兵なら、貴方達の息子も入隊させてイラクへ行かせるべきだ」と別のシーンで登場した海兵隊のリクルーターをパロディ化し、突撃取材している。また、別のシーンでは敵国のはずのサウジアラビア大使館をホワイトハウスの警備員が警備しているのをつかまえてインタビューしている。

しかし、これらのシーンで登場する取材対象がムーアに声をかけられた瞬間、「ハーイ!ミスター・ムーア!ナイス・トゥ・ミチュー」とかなんとか言って、ムーアが名乗る前に、嫌な顔をしながら挨拶している様子が挿入されている。早い話が、“ボウリング・フォー・コロンバイン”のヒットによりマイケル・ムーアの面が割れてしまっているため、前作のように、無防備な相手への不意打ち攻撃ができなくなってしまっているのである。これらのシーンを観た時、非常に愕然としてしまった。本人の才能が枯渇した、とかならともかく、マイケル・ムーアの必殺技は、自ら作り出した社会的状況により伝家の宝刀と化してしまったのだから!なんという皮肉!

だからこそ、ああいいった「正攻法」による編集となり、ムーア自身の持ち味が生きていない作品になってしまったのではないだろうか。僕はそれが悔しくてたまらない。


しかしまぁ、その「正攻法」で編集されたニュース映像、日本では全く見たことがない映像はもちろん、TVではオンエアできない痛々しい映像が大量に挿入されています。よくわかんないけど、規制の厳しいアメリカでは日常・非日常問わず、これまでは全く見る事のなかった映像ではないでしょうか?

日本の小学生が学校の図書室にある唯一のマンガ、「はだしのゲン」でトラウマをうけて平和非戦主義をインプットされるが如く、“華氏911”はイラクで起こっていることをバカでアホでマヌケなアメリカ白人に植えつけることはできるのだろうか?Rock'n'Rollの成し遂げることができなかった「表現による革命」、マイケル・ムーアはそれを達成することができるか?その結果は、大統領選挙の結果とその後の世論で知ることができる筈!?

そして、ムーアは「面割れ」への対処として、次回作のクランク・インまでにロバート・デ・ニーロのように「役作り」としてダイエットするべきだ!(笑)北野武のように、メディア露出時は意味もなくカブリモノをすることで素顔をカモフラージュするのも有効な手段かもしれない(笑)


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<参考LINK>

華氏911 公式Site (英文) http://www.fahrenheit911.com/
マイケル・ムーア 日本版公式WebSite http://www.michaelmoorejapan.com/