Elvis Costello /“The Delivery Man”B0002593-02, Lost Highway ASIN:B0002VEPL2



実は私、発売直前、けっこうギリギリまでコステロ御大の新譜が2枚同時にリリースされるって知らなかったんですよ。まぁ、単純にニュースを見逃していただけなんだけれども、ほんとうに「見逃す」くらい、今回のアルバムは事前プロモーションが非常に地味な印象がありました。

コステロ御大クラスでこの扱いとは、これいかに?と思ってたんですが、そのアンサーはアルバムの中にありました。

まぁ、早い話が、アルバムそのものが非常に地味なんですな。

ジャケットは車に映りこんだアコギを持った男の影。一見して何かのパロディとわかるようなモノでもないし、明確な被写体があるわけでもなく、という、小さい文字を読まないとコステロのアルバムであることが全くわからないような匿名性の高いデザイン。

楽曲のほうも、トゲっぽさのない普通のロック、カントリー風味?みたいな音で、レコード・メーカーの営業さんや売文屋さんとしては「エルヴィス・コステロ、何年ぶりのナントカ!」とか、大げさなコピーをつけて売りにくい・書きにくい雰囲気なんですよ。

まぁ、そもそも、コステロ御大自体、音楽性がコロコロ変化する人で、筋の通った芯みたいなものが、ぱっと見わからないだけに、これまでよくわからない売られ方をしていたのも事実で。

前々作の“When I Was Cluel”なんか、「コステロ、ン年ぶりのロック回帰作!」とか煽った宣伝文句の割には、楽曲はなんだかインダストリアルで重い雰囲気があっていわゆるコステロの「ロック」(≒初期Stiff時代)をイメージすると痛い目にあう楽曲、それでいて「奇跡のエンターティナー!」とか形容されたりと、普通に考えて、よくわからんぞ、と。

まぁ、コステロ御大自身、イカガワシイのが大好きで、(パーマネントなバック・バンドを「The Imposters(詐欺師)と命名したくらい)それでいてクレバーなもんだから、インタビューなんかでは上手い具合に編集者やインタビュアーが望んでいるコステロ像を上手いこと演じているフシも。

まぁ、だからこそ初期のパブロックだけでなく、バカ売れした“She”のようなジェントル系バラード、“とくダネ”OP曲にまでなって広末涼子なんぞにも「ファンです」と言わしめた“Veronica”のようなポップス等、一貫性・物語性の無さをカヴァーしてそれぞれの作品の良質さを裏付けてこれたのでしょう。ここらへんは本気で凄い人だと思います。


コステロ御大を日本人ミュージシャンに例えるならば、まぁ佐野元春氏、布袋寅泰氏あたりが妥当なセンかなと思いますが、(布袋氏のギターの必殺技、ディレイのフィードバックはコステロからの影響です)個人的には上田正樹氏こそ日本のElvis Costelloだと思ってます。

上田正樹、つったら、どっちかというとソウル〜ブルースだとは思いますが、まぁ、器用、っつうか、節操がないくらいいろんなジャンルの音楽やってますし、Elvis Costello & The Attractions、上田正樹サウス・トゥ・サウス、両者とも初期は個人名+バンド名名義でブレイクした、“She”と“悲しい色やね”、最大のヒット曲はロックではなくポップス・歌謡曲の土俵でバカ売れした、Stiffレコードと関西ブルース・ブーム、デビュー当時のムーヴメントを形成した仲間うちでは唯一の勝ち組で金持ち、まぁ、挙げればキリがないのですが、考えれば考えるほど似た境遇だなと。

(脱線しますが、最後の話、Wilko JohnsonやDr.Feelgood、Nick Loweが来日した場合、未だにクアトロとかでコアなファン相手にやってるのに対し、コステロ御大は東京芸術劇場やフェスティバル・ホールで大規模かつ上品に。上田正樹は普段はパリ/シンガポールに住んで、帰国した暁には、不動産屋によるありがたみも何も無い巨大霊園分譲の広告なんぞをこなして小金を稼いで・・・。コステロ御大は別に許せるけど、上田正樹のほうはなぁ〜・・・木村さんら元・憂歌団やホトケは未だにギターを背負って日本全国のバーを周っておるぞ。)


まぁいいや。いろいろブツクサ書いてきましたが、今回のアルバム、前述したようにカントリー・ロック、つうことで、やったら地味なのではありますが、みてくれの派手さが無い分、コステロ御大のメロディ職人としての側面をしっかり・じっくり堪能できる好盤に仕上がっているのではないでしょうか。

前作“North”のようにソウル〜Jazz系の楽曲だと、コステロ御大の美しいメロディが逆に仇になってしまって、予定調和ばりばりの「さぁ、良いムードだぞ、泣け!」っていう感じになって俺みたいなヒネクレ人間はものすご〜〜〜く興ざめしてしまったのですが、シンプルだけどしっかり練られているアレンジが上手い具合にハマっていて、コステロ御大のロック・ヴォーカルを楽しむことができました。

ただ、まぁ、私自身が「コステロ、好き」って言ったところで、多彩な音楽性を含めて大好き、というわけでなく、初期Stiff時代のニヒルなヒネリと激情が同居していたロックンロールを最終的に求めてしまうあたり、「ファン」とは言い難い存在であるため、今回のアルバムそのものに対しての熱狂みたいなものはあまり感じず、「個人的」評価として、佳作感の強い作品と受け止めてしまいます。


ちなみに、同時発売のコステロ御大によるクラシック・アルバム、そっちはもう自分の理解の範囲外なのでさすがにパス(笑)。自身でスコアを書く、って、相当凄いことだ、ってのはわかるんだけど、(鍵盤奏者以外のロック・ミュージシャンの大概は譜面が読めない。コードネームと進行、フレーズだけでなんとかする)さすがにそれ以上感想が出てきそうにないっすわ(笑)



   -----------------------------------

<参考LINK>

Elvis Costello 公式Site (英文) http://www.elviscostello.com/
Elvis Costello ファンSite (英文) http://www.elviscostello.info/index.php