The Beatles /“The Beatles Anthology DVD BOX”(TOBW3201, 東芝EMI ASIN:B00009347E)


1980年12月8日、衝撃的なダコタ・ハウスでの事件からもう24年。ジョン・レノン24回忌の追悼とか別に他意はないのですが、やっとDVD版アンソロジーを観終えました。ボーナス・ディスク含め全5枚組。5日間、毎日徹夜で1枚づつやっつけたのですが、なかなか見応えがあって楽しかったです。

ビートルズの場合、世界中のマニアの方が様々な研究を行っており、このDVDでも一部音源の差し替えがあるとか、いろいろな指摘を行っていますが、それほどビートルズのファンというわけでもないものの、アルバムは一通りそろえて、軌跡なども把握している、という程度の私にはある意味、初めてのまとまった形でのビートルズ・ヒストリーであり、感心することしきりの映像作品でした。

特に美しく感じたのが、このヴィデオのためにポールとリンゴがジョージの家を訪れ、庭にレジャー・シートを敷いてじじいの茶のみ話のごとく「あの頃は〜」なんて想い出話に花を咲かせて、昔のボツ曲を、ウクレレと膝頭パーカッションでセッションする場面でした。

時間と共にフェイド・アウトした蟠り、90年代以降のビートルズ再評価を受けて、ついにメンバー当人達が特別気負うことなくビートルズに向かい合った瞬間であったと思います。その場にジョンがいなかったことが悔やまれますし、2004年の今となっては、さらにジョージもこの世にいないわけですが。

しかしながら、そういった映像的な美しさとは別の部分でちょっとした不満がないわけではありません。

当然のことながらビートルズはポップ・ミュージックを芸術表現にまで高めた最初のロック・バンドであることは間違いなく、とんでもない偉業であることは誰しもが認めるところではありますが、どうにもこうにも、各メンバーはもちろんジョージ・マーティンをはじめとするブレイン達全員がけっこう自画自賛的な総括を行っていたのが非常に気になりました。

人が最低2人あつまれば、ミニマルな単位での社会は成立するわけで、その中において、それぞれに立場は存在し、利害関係の調整作業が必要になるのは自明の理でありますが、その「かけひき」に関する証言と反省が大きくカットされているように思います。

おおざっぱな計算で言うならば、本編4枚組み中、“Sgt. Pepper's 〜”〜“Abbey Road”に至る中後期から解散に至るまで、メンバー間の人間模様が(ある意味)最も面白いであろう期間を扱っているのはDisc4の1枚程度。

それ以外は“リボルバー”あたりまでで構成されており、コンサートやTV出演をしなくなったため素材が少ないという事情を考慮しても、どこかしら意図的な傾斜配分がなされているような気が。

そりゃあ、経営問題などが表面化してゴタゴタばかりの後期より飛ぶ鳥を落とす勢いの初期〜中期に誇りたいエピソードが多いのもわかりますが、いかんせん、ヒストリーを追う作品としては、ビートルズの正確な実体を提示しきれていないのではないでしょうか。

そして何より、これがオフィシャルなヒストリーとして認定されることは、世間一般に広まっている、実体とかけ離れたビートルズ像にある意味太鼓判を押しているようなものであると思います。

この文章を読んでくださっている皆様がビートルズについてどのようなイメージをお持ちかはわかりませんが、一般的なイメージとして、メロディがキレイなポップ・ミュージック、ポールはスゥィートな天才メロディ・メーカーで、ジョンは愛と平和でヨーコとラブラブな良い人・・・とか思われています。

まぁ、ビートルズ・フリークからすれば「それだけじゃなくて・・・」とさまざまな角度から説明するところでしょうが、私は特別ファンというわけでもないですし、そんな輩がいたら「そんなわけあるか、この痴れ者、抜作めが!」と一刀両断にぶった切ってやりたくなるんですよねぇ・・・。

ポール作の大ヒットバラード“Hey Jude”、これなんか一般ピーポーでも知ってる名曲だと思います。ジョンと最初の妻・シンシアの間に生まれたジュリアン・レノンへのメッセージ曲で、「くよくよするな、あの娘を受け入れろ、そうすればまた楽しい日々がやってくる」と歌われています。

この曲が書かれて録音されたのはホワイト・アルバムのセッション、すなわち、ちょうどジョンとオノ・ヨーコが恋人としてブイブイいわしてた時期。美しいメロディに騙されそうになりますが、フツーに考えたらコレ、かなりイヤな当て擦りであるのは明白です。「パパがジャップの女とバカップルしてるけど、受け入れて気にするなョ」って。

極めつけは“Get Back”でしょうか。一般的には、メンバー間の不仲が表面化している中、「昔のビートルズにGet Backしよう」というポールの呼びかけの曲ですが、「Get Back」という言葉は初期ビートルズお得意のダブルミーニングであり、“Get back to Japan, Yoko!”という意味も含んでおり、それが証拠にポールはギターソロ最中に“Go Home!”とシャウトしています。

そりゃあジョンとヨーコからすれば激怒するのも無理はないくらいポールがヤな奴であるのは明白で、“imagine (Millennium Edition)”の日本盤ライナー・ノーツでヨーコは「ポールはずいぶんチクチクチクチクやってたわけですよ」なんて発言して、かなり根に持っていることを明かしている。

ジョンとポールは70年代末には仲直りしてるんだから、もうエエやないですか、という気はしないでもないですが、インタビューされた2000年になってもまだ言ってるというのは相当、情が深いと言うか、陰湿なオバハンやなぁ・・・と。

じゃあ、かく言うジョンのほうはどうかと言うと、その陰湿なオバハンのイメージ戦略で愛と平和でラブラブな・・・な印象が定着していますが、私としては、それに奇行癖を付け加えたいところ。

何よりジョン&ヨーコの1stアルバムのジャケット写真が凄い!実際に画像は検索して探していただくとして、ゴンヌズパーっと一糸纏わぬ、生まれたままの姿で2人並んでいるのですよ。しかも「アート」ゆえ無修正!神々しき御開帳です。アイドルとしてビートルズを見ていたうら若きお嬢様の生まれて初めて見たイチモツは、ジョンのモノであった・・・という例は少なくないと推察されます。

非常に役に立たない豆知識を付け加えるならば、このジャケ写で見るジョンのナニは、少々仮性包○気味であり、なぜムキムキしなかったのかが疑問です。(汚い話しですね、失礼しました)

内容の音のほうも、60年代にこんなんがあったんか!?ってくらい時代の先を行き過ぎている内容で、全編ノイズとサンプリングの嵐。90年代後半になってやっと「音楽」とされたような類の音。それ自体の良し悪しは私には判断できませんが、そこでサンプリングされているのは何とヨーコのあえぎ声。“ああ〜ん(はあと)”なんて声がバンバン流れてくるモンだから、深夜に壁の薄いアパートで聴こうものなら、隣人に「AV鑑賞?」と思われること請け合いです。

しかもこの“Two Virgins”、過去を抹殺するかの如く、現在は廃盤になっていて、許諾を取ってるのか取ってないのかは不明ですがRYKOというブートレグすれすれの怪しいレーベルが販売している有様。日本ではマニアックな輸入レコードショップなどを探さなければ手に入りません。

これが“アート”として、意味づけなり、コンテクストに整合性があると主張できるならば、ヨーコだって廃盤なんかにはせず、きちんとした形で市場に残すはずで、廃盤にして闇に葬ろうとしているあたり、何かしらの意図を感じる・・・というのはうがちすぎでしょうか。

キリが無い上、様々な研究家による推論がネットに上がっているのでいちいち掘り返したりはしませんが、マネジメント筋やフィル・スペクターなどプロデューサーに対するスタンスなど、ビートルズって本当に「ヘン」な事をやっているのです。

当然、あの異常なフレイバーの中で全責任を負っているメンバーやスタッフ達が正気を保つのは至難の行為であることは間違いないです。しかしながら、そういった狂騒からずいぶん年月は経ったわけで、そんな過去をメンバー自身でエンターテイメントさせながらきっちり総括し、“アンソロジー”をさらに面白くすることは断然可能だったのではないかと思うのです。

私自身は、わかって意図的に悪意をこめて上記のような「あえて言わなくてもエエやろう!」とツッコミたくなるポイントを挙げましたが、こういうポイントをわかった上で、公的なヒストリーを受け取らないと本質を見誤って、紋切型の使い古された美辞麗句で神格化することになるわけで。

ビートルズという怪物の、その凄さと歴史的意義付けを改めて行ううえで、ジョン実質的1stソロアルバム“Plastic Ono Band(ジョンの魂)”のハイライト・ナンバーである“God”で叫んだあの言葉、“I don't believe in Beatles!”は思い出されてしかるべきではないでしょうか。


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<参考LINK>

The Beatles Apple Corps Official Site(英文) http://www.thebeatles.com/
The Beatles 東芝EMI Official Site http://www.toshiba-emi.co.jp/beatles/
●B'net The Beatles Internet Club http://www.thebeatles.co.jp
The Beatles Website (Unofficial) http://beatles.at.infoseek.co.jp/