●12/30 佐野元春“The Sun Tour 2004-2005”@大阪フェスティバルホール


今年のLIVE収めは12月30日の佐野元春大阪公演でした。

どうもこの日は「大当たり」だったようで、なんと、以前の佐野氏のバックバンド・Heartlandから長田進氏がゲスト出演!新譜“The Sun”の2曲とHeartland時代の某名曲でセッションしてくれました。佐野元春の昔のアルバムはほとんど聴いていないのでオリジナルと比べてどうこう、Heartland時代がうんぬんつうのは無いから会場全体のどよめいた盛り上がりとは温度差がかなりありましたが、長田氏が参加した尾崎豊のラスト・ツアーのLIVE盤は高校時代よく聴いたし(恥)、現・佐野氏のバックバンド、H.K.Bでドラムを叩いているのは長田氏と根岸孝旨氏のプロデュース・ユニット、Dr.StrangeLoveを脱退したはずの古田たかし氏・・・・!いやいや、なかなか感慨深いものがありました。

現在もツアーは続いているため、セットリストはもちろん具体的曲名は控えますが、新譜とベスト盤でフォローされているナンバーで構成された内容はいちげんさんのオーディエンスにも非常に優しかったですねえ。それでいて、定番曲はレコードとは異なるアレンジになっている、会場によって演奏曲が若干異なるなど、マニアも納得させる仕様。ある意味、ロックバンドのツアーの理想形と言って差し支えないと思います。(まぁ、私は佐野元春のLIVEは今日が初めてだったので、実際のマニアさんはどう考えているかはわかりませんが・・・)

実は私、佐野氏に関しては新譜“The Sun”とベストアルバム1枚しか聴いておらず、はっきり言って、ほぼ完全まっさらな状態で今回のコンサートに臨んだわけですが、開演前、いちばん楽しみにしていたのは、実はH.K.Bの演奏でした。佐橋佳幸井上富雄、古田たかし、Kyon・・・ため息が出るくらいくらい名うてのセッション・プレーヤーが結集して佐野元春を盛り立てるわけですから、それはそれは凄いことになるわけで。

・・・でも、悲しい話だけれども、その期待と実際のアンサンブルにはちょっとした意識のズレがありました。H.K.Bだけでなく佐野氏も含めたバンド全体に感じたのですが、なんとうか、サウンドとステージ・アクション両面においていまひとつ「煮え切らない」ものがあるのです。

個々のプレーヤーの力量に支えられた緻密でシンフォニックなアレンジ、(レコードとは異なり)それをたったの6人で再現する演奏力は単純に年季を重ねただけの「オーラ」みたいなものとは全く異なる、ある種、絶対的なものとして私に迫ってきたのですが、ある一定以上の温度へは絶対に突き抜けない、むしろ、突き抜けようとすることを意図的に制限している印象を受けました。

アレンジとして割り振られたソロ・パートでは各人とも前に出た魅せるプレイを頭ひとつ出た音量で演奏するのだけれども、それ以外の部分では首尾一貫して「全体のこと」しか考えない、もっと言うと「手堅い」印象の演奏で通していて、結果、バンドが「走らない」感じなんですよ。

抽象的すぎるのでもうちょっと個別具体的に書くと、ミドル・テンポのナンバーで、ベースがもう0.5段階音量が大きければ、音の重心が下がって、グッと腰にくる踊れるナンバーになるんだけれども、頭の上で手拍子をするような雰囲気のノリの客に合わせて意図的に寸止めで止めている、だとか、ドラムがバックビートを刻む際、歌と音がかぶるのを避けてスネアだけは意図的にショットのパワーを弱めて叩き、各楽器のソロの裏でのみ鋭角的なリズムになるよう叩く、曲のキメの部分においても、他楽器をつぶさないよう配慮してやはり意識的に柔らかい音がするショットを放っていた、だとか。

PA的な部分の問題もあるのかもしれないですが、どれも本当に「寸止め」で止めていたところを見ると、ステージ上でのプレイヤー自身による音量コントロールのアンサンブル・テクニックとして、意識的なものであったと見てよいでしょう。

別に、バック・バンドという意味ではフロントマンによるコントロールがバンドの回転数なりグルーヴの方向付けを行うわけですから、やたらめったら自己判断で「走る」ポイントを設定するわけにもいきません。では、翻って、そのフロントマンのテンション・コントロールはいかがなものであったかと言うと、これもまた「煮え切らない」。

アンコール、盛り上がること間違いなしの名曲でMC等でも客を煽った、最初のサビは大合唱になった、さぁ、ギターソロだ!という時、ムスタング(エレキ・ギターの1種)でバッキングを刻みながら佐野氏がセンターから下手サイドへ走り出して、をを、この曲は佐野元春自らギターソロを担当かっ!と思わせたその瞬間、スライディングをキメて動きが止まってしまい、上手サイドで佐橋佳幸氏がソロを弾きはじめる、観客としてはどっちに注目すればよいのか!?この間約1秒。こんな具合にギアをトップに入れるかと思わせつつ、サードギアをキープするかのようなアクションを入れるわけです。

別にこのバンド、ガチガチに進行の決まった譜面なんかがあるわけではなく、アドリブでソロパートを振るなど、その場その場で佐野氏の指示で動けるようなフレキシブルな部分というのは十分にあるし、それを鼻歌交じりで追従していくだけの演奏力もある。でもそこで、佐野氏もバンドも意図的に爆発する方向へは持っていかないのです。

単純に、私と佐野氏のテンションのズレであり、期待するところと意図するところの悲しいねじれでしかないのだけれども、MCで「今日という夜を特別な夜にするには、みんなの力が必要だ」なんてキザにMCしてしばしば手拍子を煽るなど、観客との一体感を盛り上げようとした割には演奏面はあまりにも突き放したCoolさを感じてしまい、非常に良い演奏なんだけれども―・・・どうも一貫性がないというか、ちぐはぐな、「煮え切らない」ものを終始感じてしまったのです。


・・・これは蛇足な余談ですけれど、かつて佐野氏がプロデュースしたバンドの一つに山口洋率いるHEATWAVEがありました。佐野氏が積極的に関わった5thアルバム“1995”は90年代のHEATWAVEの最高傑作として名高い名盤なのだけれども、この路線でさらにアルバムを作れば世間の認知もずいぶん変わったであろうに、山口氏はメンバーと袂を分かち、独りになってレコード会社・所属事務所を移籍、6thアルバム“Tokyo City Man”では曲調的には“1995”に近いものの、アレンジとしては最低限のサポート・メンバーとのセッションとなり、非常にシンプルで無骨なアルバムとなりました。

極端な話かもしれないですけれども、上記のようなバンド改革の理由は結局、前述したような部分で違和感を感じ、窮屈になり、身動きが取れなくなってしまったから・・・というのがよくわかりました。
(これは、現在のHEATWAVEのメンバーを見れば、さらに頷けます)




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<参考LINK>

●Moto's Web Server (佐野元春公式Site) http://www.moto.co.jp/
●『THE SUN』ライナーノーツ (佐野元春 Interview Blog) http://moto.tsutaya.jp/
佐野元春マニア (ファンの評論) http://www.silverboy.com/silverboy/moto_top.htm