●1/15 怒髪天 “握拳と寒椿 男気運転ツアー 〜4人はアイドリング〜” @Liquid Room Ebisu

怒髪天、再・メジャー・デビュー・アルバム、レコ発ツアーの東京追加公演。年末の渋谷クアトロがソールド・アウトして、上昇機運ムードをアピールした彼らですが、この追加公演も完全に売り切って、ブレイクの予感すら感じるほどになってきました。
怒髪天を観るのははじめてだったのですが、増子氏の自称“リズム・アンド・エンカ”の世界って<馬鹿者の男の世界>、つう雰囲気ですけど、客層的には意外とロック系の女の子が多かった気がします。コアで支持してる(すべき)のはやっぱ男連中だと思いますが、ミーハーなエネルギーもブレイクに必要不可欠な要素だと思いますし、このエネルギーが持続してくれれば、と思います。

LIVEの感想でとても感じたのが、ARBが成長する過程で失った(悪い意味ではないです)ものに強くこだわっているというか。何というか、イマドキ珍しい、ARB、それも第一期田中一郎時代のARB直系のバンドだということです。
主張を強く持った歌詞をシャウトして煽っていくスタイルのヴォーカリスト、Coolで美形、ファッションもPOPなギタリスト、典型的なパンク・ベース、コメントし難い異様にキャラ立ちしたドラムス・・・この布陣、完全に第一期ARBと同じなんですよね。
特にギターの上原子友康氏、本当はテクニックとして色々できそうなんだけど、あえて固めの音、前のめりなカッティングにこだわっているという演奏スタイルはもちろん、ステージ上ではヴォーカルの増子氏とほとんど目を合わそうとしない、「実は仲悪いんじゃないか?」って思わせる、でも演奏バッチリ、という妙に醒めたヤバさを感じる部分まで似ています。

04年10月21日付のエントリーでしたためたイベント“The Cover”の感想とも関連してくるのですが、増子直純氏の凄さって、やはりその直情的な唄を、直接感情的でありながら、ペーソスでもってして聴き手に迫ってくるところではないでしょうか。
・・・私、怒髪天の音楽を聴くと、どんなにパンキッシュなナンバーでも、なんだか悲しくなってくるんですよ。
確かに、「そのとーりだ!イェーッ!」って盛り上がってくる感情も、「ぐはははははは、情けねェなぁ、おい」って笑える部分もあるんだけど、増子氏の視点の本当の奥底にあるのは、ものすごく醒めた観察眼という気がします。
例えば、“実録!コントライフ”というナンバーがありますが、この曲が演奏される時、増子氏は「どんなに辛くても、後で思い返せば笑えるから・・・」みたいなMCをしていたのですが、これって結局、自分自身を冷徹に突き放して見つめることができるからこそ言える発言、歌える唄になるわけで。

「笑い」ってけっこう残酷なもので、その時・その瞬間、自分自身がどんなに汗水鼻水たらして頑張っていても、その姿を他人が見て「ヘン」と断定した瞬間、物笑いのネタと化すわけです。

それを踏まえて怒髪天の曲を聴くと、ただの純情一本気ソングではないことがクリアに見えてきます。
“俺様バカ一代”で「俺を見てみろ このバカぶりを 見事なまでの フリキレぐあい 立派なオトナ? そいつァ無理だ でも立派な俺様になる」と増子氏は絶叫していますが、そもそも、自己を「バカ」と規定し、「30歳以上は信じるな!」なんてもう言えない、30歳なんかとっくに超えた、エエ歳こいたオッサンになっているにもかかわらず、「立派な大人にはなれない」と歌っている姿は、フツーの人からすればシュールさすら感じるかもしれない。
ドアーズのジム・モリソンは"People are strange, when you are stranger."と歌っていましたが、この言葉が象徴するように、もし歌い手自身がキチ○イであるなら、周りを、社会をキ○ガイとして認識し、単純に「俺は正しい、一般ピーポーがバカなのだ、おまえら死んでしまえ!」と主張するでしょう。
しかしながら、増子氏は「バカ」であること自認、つまり、その悲しさを自覚し、受け入れて、それでいて「立派な俺様になる」ことを選択・決断しているのです。
イマドキの明るく元気なよい子のパンク・ロックと異なっているのはまさにその点で、彼らが疑うことなく、根拠もなしに<ポジティヴ=善>という絶対的前提をもとに個性がうんじゃらかんじゃら唄っているのに対し、増子氏によるコブシのまわった熱い(暑苦しい)ロックンロール・ナンバーには徹底した自己相対化、その過程で発生したであろう自意識の危機が奥底にあるわけで、それこそが、増子氏の発する言葉の重層感と説得力を形成しているのではないでしょうか。

公式サイトその他においても、活動再開前−、最初にデビューした頃の記録は封印に近い状態で、ディスコグラフィーも含めて一切触れられていませんし、活動休止中、増子氏はサラリーマンとして包丁の実演販売なんぞをやっていたそうで、この時期に何かの転機にになるような強烈な体験があったのかもしれません。


個人的にはこのバンド、武道館で観てみたいなぁ、と思いました。
全国に大規模なライヴ・ハウスがあって、観客収容人数とロック的な身近さが両立しやすい環境が整った現在となっては、ちーとも流行らないのだろうけど、、、苦節ン10年、ついに到達した云々、じゃないんだけれども、、、
ライブハウス・イベント、ライブハウス・ワンマン、中ホール、大ホール・・・こういった着実なステップアップの、あるひとつの象徴的到達点として武道館はうってつけの会場だし、怒髪天のような自らのペースで闘い続けるバンドこそ、「到達点」までたどり着いたときの達成感は、そんじょそこらの連中がやる以上の意味合いがあるのではないでしょうか。



   -----------------------------------




<参考LINK>


怒髪天 公式WebSite http://www.dohatsuten.com/