布袋寅泰から新作が届く。新作に冠したタイトルは“GUITARHYTHM V”。まぎれもなく、布袋氏ソロ活動の原点であり、90年代前半、J-Rockシーンに金字塔を打ち立てた伝説のシリーズ復活なのである。昨年のファンクラブ会員限定ギグでポロリとGUITARHYTHMシリーズ復活を示唆する発言をしていたらしいが、まさか本気でそうなるとは思ってもみなかった。

でも、しかし・・・個人的には、どうも“GUITARHYTHM V”というタイトルになじめない感覚がある。どちらかと言えば、“SOUL SESSIONS III”となっていればしっくりきたのでは、という気がするのだ。この違和感が結局どこから来ているかというと、自分なりの言い方をするならば、「布袋寅泰・GUITARHYTHMという物語からの連続性の欠落」ということに他ならない。

確かに、“GUITARHYTHM”シリーズの世界観を踏襲している箇所は存在する。ファースト・ナンバーの“GUITARHYTHM RETUENS”など、過去から現在への橋渡しをしつつ、映画さながらのイマジネイションを喚起させる壮大な導入なのは間違いない。でも、逆に“GUITARHYTHM”であることの必然を示すのはこの曲とラストの“OUTRO”〜To be continued〜くらいな感覚が強い。

むしろ、本作の特徴はクラブやHIP HOPシーンからやってきた多彩なゲストとのコラボレーションである。しかも、そのコラボレーションというのは単純にゲストを招いて軽く演奏してもらって・・・というレベル感ではない。布袋氏はあくまでたたき台となる下地を提示した程度で、むしろゲストに布袋氏の個性を委ねているといってよいくらいである。“GUITARHYTHM IV”まででもコラボレーション主体で制作された曲は多数存在するが、どちらかと言うと、全体的なアルバムコンセプトがあり、その中での1つの要素でしかなかったように思う。しかし、今回はその間逆である。むしろ、コラボレーション主体で制作したナンバーを布袋寅泰×岸利至のゴールデン・コンビによるナンバーで繋いでる、といったほうがしっくりくるのではないか。

旧来の“GUITARHYTHM”と決定的に異なっているのはまさしくその点で、布袋氏のセルフプロデュースによる一貫した世界観が特徴だったのに、“GUITARHYTHM V”では布袋氏と多彩なゲストとの個性のぶつけあいがウリになっているのである。“GUITARHYTHM”〜“GUITARHYTHM IV”までの間でもサウンドは大きく変化しているわけだから、音楽性の変質という観点では別にどうって事はない。ただ、“GUITARHYTHM IV”までが(サウンド面においては)それがそのまま布袋寅泰という存在であったのに対し、“GUITARHYTHM V”においては布袋寅泰×ゲストによって新しく生み出された音世界である。そういう意味で、“GUITARHYTHM IV”と“GUITARHYTHM V”の間にはとてつもなく大きな“溝”があるという気がする。

そして、“布袋氏と多彩なゲストとの個性のぶつけあい”というコンセプトは、というと、結局のところ“SOUL SESSIONS”からの流れなのである。アルバム“Soul Sessions”、“Ambibarent”という布袋氏以外の個性が無ければ成立しないアルバムのシリーズとして本作を捉え直したとき、連続性を保持したストーリーが明確に浮かび上がるのだ。

布袋氏の音楽的変遷を大まかに分割するならば、以下の4シーズンに分けることができるであろう。

  1. BOOWY期(BOOWY時代)
  2. GUITARHYTHM期(“GUITARHYTHM”〜“KING & QUEEN”)
  3. ROCK THE FUTURE期(“SUPERSONIC GENERATION”〜“MONSTER DRIVE”)
  4. SOUL SESSIONS期(“SOUL SESSIONS”〜)
おおよそ、オリジナル・アルバム5作品毎に数年間をつなぐトータル・コンセプトが切り替わり、その節目のアルバムでそれが具体的に提示される感じである。それぞれの期についてこまかく解説はしない。ただ、確実に言えることは「SOUL SESSIONS期」に、それに基づいたコンセプトの音を提示されて、それを「GUITARHYTHMの続編だ!」と言われているのが現状なのである。正直、気分的には「スター・ウォーズの最新作でマトリックスの物語が展開されている」みたいなトコロである。

ここからは筆者の完全なる邪推なのだが・・・今回の“GUITARHYTHM V”というタイトル、布袋氏の意向というよりは、マーケティング主導で命名されたのではないだろうか?今回のアルバム・プロモーションは近年無いくらい力の入ったものだったように思う。例のアーティスト写真をいたるところで見かけたし、雑誌のインタビューもかなりの数読んだ気がする。でも、“GUITARHYTHM”という看板を外して考えた時、ここまで力を入れてプロモーションされる理由というのはあったのだろうか?“スリル”“バンビーナ”のような、コマーシャルな曲も無いのに・・・。“GUITARHYTHM”という看板ありきで考えた時、話題性という面はモチロンのこと、I〜IVの再発、ベスト盤等の商品展開が可能になるわけで、スーツを着た現場のおじさん達にとってはわかりやすい企画書で経営層から予算枠を確保する格好のネタなのである。

4月27日より本作を引っさげて“GUITARHYTHM V TOUR”が行われる。ものすごく細かい事を言うと、GUITARHYTHM期、ツアータイトルには“WILD”や“SERIOUS?”等、作品のコンセプトを提示するキーワードが使用されていた。「V」という作品のナンバーがツアータイトルに冠されたことはこれまでに無かったはずだ。どこまで意識して命名しているのかは不明だが、マニアな聴き手からすれば、このあたりも「不連続」に他ならない・・・。hotei.comのバナーには「BEST OF GUITARHYTHM」と銘打たれている。内容的には“GUITARHYTHM V”の世界観を生で体験するという感じではないのかもしれない。過去の清算という意味では、数年前、“ALL TIME SUPER BEST TOUR”という素晴らしいツアーを大成功させたばかりなのだから、どちらかというと、一夜限りでもいいから、ゲストを招いて“GUITARHYTHM V”の生再現をしてほしいのだけれど。やはり、“GUITARHYTHM BOX”を売るためのツアーになってしまわざるを得ないのだろうか??

そういう意味で、これまでに無いくらい不安感のあるツアーの幕開けである。とは言っても、あくまでセットリストやコンセプト面に対する不安であって、バンドサウンドという観点では逆に期待でいっぱいなのである。バンドのエンジンであるドラムスには久しぶりにザッカリー・アルフォード氏が来日・参加してくれる。筆者は氏を「英国版池畑潤二」だと思っているのだが、シーケンスと同期しながらパワフルなビートを爆発させる凄腕ドラマーである。それに対し、ベースはナスノミツル氏が担当するとのこと。筆者は昨年の東大寺で観たのみ、しかも市街地の野外だったせいか低音控えめのミックスだったためプレイスタイルはよくわからないのだが、ノイズ・ミュージック畑の人だと聞いている。ノイズだからと言って偏見を持つなかれ!あの世界のミュージシャンは何気ない雑音からグルーヴを抽出して音楽に加工して提示する、ある意味“職人技”の技能を持っているのである。Heatwaveの細海魚氏なんかもそうなのだけど、ノイズ・アンビエント系の人がポップ・ミュージックに接近する時、ものすごい演奏をする事が多い。これは期待大である。

そんなわけで、ツアー初日の東京厚生年金会館は何としてでも行く予定なので、なるべく早期にレポートしたいと思う。もうしばらくお待ちを・・・!(・・・と言って、“Ambivalent”のツアーはレポートをすっとばして公約違反しました。今度こそは・・・ネ。)